長岡高校応援歌物語・第四章 『応援歌(其の三)』

一、嗚呼長高(中)に 生気有り
青春の児が 熱血の
諸手にかざす 紅の
柏の旗の 色見ずや
久遠の思い 胸にして
挙げて帰れや 勝鬨を

二、嗚呼長高(中)に 霊気有り
春秋に富む 益良男が
歴史を誇る 諏訪堂の
健児の意気を君見ずや
兜城下に 桂冠を
かざして帰れや 我が選手

この歌は旧制第一高等学校寮歌『年はや己に十八と』から引用されている。三番の最後の一節の歌詞はまったく同じである。


『年はや己に十八と』(旧制第一高等学校第十八回記念祭寮歌

作詞 青木得三 作曲 鈴木充形  (明治41年)

一、としはや己に十八と 積り積りてなりたるか
今日帰り来る陵の上(おかのへ)に 紅翠紫や
みやび色のみ多くして むかしの姿なかりけり

三、聞けば弥生の花ざかり 西嵐山や桂川
古き都に攻め入りて 恕のいくさこころむと
行け行け友よいざ行きて 揚げて帰れやかちどきを


この旋律は旧制山口高等学校の寮歌『鴻峰はれて』や、仙台一高(宮城)、沼津東(静
岡)、本荘(秋田)、石沢中(秋田)の応援歌にも採り上げられている。


『仙台第一高校 応援歌一番』

山も怒れば万丈の 煙を吐いて天を衝く
ゆるけき水も激しては 戦場の堤破るらむ
見よ男性の意気高く 堂々と勝つ一高軍


『沼津東高校 応援歌(栄えある戦)』

嗚呼岳南の花吹雪 春宵の夢醒果てて
血を啜りけん凄惨の 臥薪の業の成りにけり
喨喨高く天を突く 金鼓の響き聞くや君


『鴻峰はれて(旧制山口高校寮歌)』

鴻峰はれて紅匂い 白鳩高く空飛べど
混濁濁の黒潮の 逆巻きかへる響して
邪と迷とに人々は 静心なき夕かな


1988年(昭和63年)に封切られた、山田洋次監督、薬師丸ひろ子,中村橋之助主演の映画『ダウンタウンヒーローズ』の中で、旧制松山高等学校と旧制山口高等学校の卓球の試合の場面があるが、この中でこの曲が流れている。

さて、この章を論じているうちに気になっていた事がある。それは今回の調査の過程で遭遇した他校の応援歌、ほかならぬ新潟高校の応援歌の中に、『第三応援歌』と非常によく似た歌詞を持つものがあったのである。以下に紹介する。


『新潟高校 応援歌D』

一、嗚呼青陵に正気あり 青春の子が熱血の
双手にかざす紅の 護国旗の色君見ずや
我が当年の丈夫が 鉄腕撫して立つところ
信江の空連勝の 覇業の栄に輝きぬ

二、干戈一度おさまりて 平和よ暫し春の夢
信江百里惨として 乾坤どよもす鬨の聲
噫(ああ)戦わむ勝軍(いくさ) 晴の歴史を飾るべく
渾身の血は躍るなり 戦はん哉 友よいざ


この歌は一番の前半部は『第三応援歌』と同じであるが、旋律が違うのと、何よりも文節が多いため旋律が収まらない。すなわち、別の歌であるということである。ようやくたどり着いた歌が、同じ旧制第一高等学校の『端艇部応援歌(嗚呼向陵に)』であった。


『旧制第一高等学校 端艇部応援歌(嗚呼向陵に)』

作詞 今井常一 作曲 矢野一郎  (大正9年)

一、嗚呼向陵に正気あり 青春の児が熱血の
双手にかざす紅の 護国旗の色君見ずや
我が当年の丈夫が 鉄腕撫して立つところ
墨江の空連勝の 覇業の光栄(はえ)に輝きぬ

二、干戈一度おさまりて 平和よ暫し春の夢
唯三尺の剣を撫す 丈夫(じょうふ)の悲憤幾春秋
飛躍を待ちて幽谷に 臥龍(がりょう)の思ひ幾春秋
越殿の花我知らず 唯営々の意気の跡

四、さはれ高眠永からず 今壮快の晴れ軍
墨江十里惨として 乾坤どよむ鬨の聲
嗚呼戦はむ勝軍 光栄(はえ)の歴史を飾るべく
渾身の血は躍るなり 戦はんかな友よいざ


新潟高校の『応援歌D』の一番は『端艇部応援歌(嗚呼向陵の)』とほぼ同一。二番は同じく二番の最初の一節と四番の二節以降とほぼ同じであることが判ると思う。「向陵」を「青陵」に、「児」を「子」に、「墨江」を「信江」に、「十里」を「百里」にと一部語句を置き換えただけである。これら二曲は歌詞が『第三応援歌』とよく似ているが、実はまったく別の曲である。

今回、新たに判明した事実は「旋律」のみならず「歌詞」も他の楽曲から引用している場合があるということである。単にある歌の歌詞だけ置き換えるのではなく、他の楽曲の別の歌詞を一部引いてきて、それに別の要素を吹き込んでまったく新しい歌を作るというかなり高度なテクニック(?)である。字面だけで見て同じ曲だと思っていたら、実は全然別の曲だったというケースもあるということを今回経験した。考えてみれば、昔の歌は「七五調」「五七調」と決まった調子、語調もいわゆる「晩翠調」という漢文調で作られていることが多いから、字句を入れ替えても全然違和感を覚えない場合がある。

今回の経験が、後に他の曲での「ルーツ探し」にもおおいに役立つことになる。

さてさて、話を再び『第三応援歌』に戻そう。我々が高校時代、応援練習で歌った際にはかなりゆっくりと、余韻をもって歌っていた。また、「諸手にかざす紅の」の部分は「くれぇーなぁーい / のぉー」という風にユルく歌っていたように思う。いかにも旧制中学の雰囲気を感じさせてくれる趣のある曲で、下駄履き通学の行き帰りに口ずさんでいたのを思い出す。

文: 長高 健児 (ながたか けんじ)
企画・制作: 長岡高校S50年卒「50☆50の会 印刷・HP分科会」
(2006.3.3掲載)

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